●個性さまざま! 製薬メーカーの年賀状
現在も続く製薬会社が年賀状創成期に手がけていたはがきも、見ごたえたっぷりです。製薬メーカーのビジネス年賀状というと、堅いご挨拶を想像する方も少なくないのでは? そんなイメージに反して、各企業が作る年賀状は実にバラエティ豊か、ユニークなアイデア満載。ツムラの前身・津村順天堂を創業した津村重舎、大正製薬所を立ち上げた薬剤師・石井絹治郎が差し出した貴重な年賀状もご覧いただけます。
ツムラ
創業者・津村重舎の年賀状
1900(明治33)年
1907(明治40)年
1917(大正6)年
左はがきの宛名面
大正製薬
創業者・石井絹治郎の年賀状 1920(大正9)年
大正製薬
創業者・石井絹治郎の年賀状 1920(大正9)年
龍角散
1911(明治44)年
※通年用の絵はがきに、新年の挨拶を書き込んで使用したもの
龍角散
1911(明治44)年
※通年用の絵はがきに、新年の挨拶を書き込んで使用したもの
星製薬
1912(明治45)年
1917(大正6)年
1934(昭和9)年
塩野義製薬
1935(昭和10)年
1936(昭和11)年
猪飼史郎薬房
1905(明治38)年
1911(明治44)年
1914(大正3)年
1915(大正4)年
大阪・江戸堀の地で、明治から大正期に胃薬「ビットル散」「イカイ胃散」を製造・販売していた、現存しないメーカーのものです。商品のPRを兼ねたイラスト入り年賀状がどれもユニーク。「ハッキリ目薬本舗」という分店のネーミングもキャッチーで、代表・猪飼史郎のアイデアマンぶりが窺えますね。大坂冬の陣にも縁の深い一心寺の境内に、氏の立派な墓が建てられています。ちなみに彼の妹は、塩野義製薬の創業者・塩野義三郎の次男である塩野長次郎(のちに塩野義製薬副社長)に嫁いだとか。
●ビールにお香、出版社……老舗企業&懐かしいあの商品編
サッポロビール
1904(明治37)年
1876年に開業し、翌年に冷製「札幌ビール」を発売した「開拓使麦酒醸造所」が、現・サッポロビールのルーツ。1887(明治20)年には札幌麦酒会社を名乗りました。1906(明治39)年には合併によって大日本麦酒株式会社となり、戦後まもなく現在のサッポロビールとアサヒビールに分割されています。現在まで続くトレードマークの星型の中に、東京・吾妻橋向かいにあった東京醸造場の外観が描かれています。
鳩居堂
1912(明治45)年
1914(大正3)年
1915(大正4)年 新製品の案内状
お香や書画用品、紙製品などを扱っている鳩居堂は、江戸時代の1663(寛文3)年創業。1700年代の元禄の頃に薫香線香の製造、書画用文具の輸入販売を始めました。1914(大正3)年の12月に差し出されたはがきには、香・筆・墨の大正4年新製品を一月早く発売開始した旨が告知されています。
三省堂書店
1910(明治43)年
三省堂書店
1910(明治43)年
1881(明治14)年、東京・神保町の地に古書店として開業した三省堂書店。2年後には新刊書店に転換し、1884(明治17)年に出版事業、1895(明治28)年には印刷事業をスタートさせています。1915(大正4)年には出版・印刷部門が独立し、現在の株式会社三省堂(出版社)が誕生。1910年(明治43)年の戌年に差し出した、かわいらしい犬のイラスト入り年賀状が残っています。
森永牛乳
1936(昭和11)年
1936(昭和11)年
差出名として印刷されている森永牛乳株式会社は、現「森永乳業株式会社」の前身企業「森永煉乳株式会社」の当時の子会社。社名の上には昭和初期のエンゼルマークも印刷されています。森永製菓がミルクキャラメルの原料を自社製造するため1917(大正6)年に設立した日本煉乳が、森永製菓との合併・分離を経た1927(昭和2)年、森永煉乳株式会社に。1929(昭和4)年12月に新商品「森永牛乳」が発売されました。現在の森永乳業が誕生するのは、戦後1949(昭和24)年のことです。
高橋東洋堂(アイデアル化粧料)
1893(明治26)年に創業、化粧品ブランド「アイデアル」を製造販売していたメーカーのはがきです。当時の化粧品は問屋を通じて販売されていましたが、大正12年に高橋東洋堂が、初めてメーカー直売の制度を資生堂との間で導入しました。コーセーを創業した小林孝三も高橋東洋堂の出身です。
平尾賛平商店(小町水本舗)
自社製品を赤ちょうちんに記して国旗の周囲に並べた、化粧品メーカーの年賀状です。1878(明治11)年創業のこの会社は当時、看板商品の化粧水「小町水」のほか、医師・松本良順が処方した脚気薬「利散水」なども販売していました。1891(明治24)年には「ダイヤモンド歯磨」、明治末期以降は乳白化粧水レートを皮切りに「レート」と冠した化粧品ブランドも展開しています。
●おまけ:封筒卸商から紙店に届いた封筒年賀
ここまで、はがきでの年賀ご挨拶を見てきましたが、年賀郵便の創成期には封書でのご挨拶も行われていました。最後に、今から100年前、東京の封筒卸商から信州の紙店に届けられた“封筒入りの年賀郵便”をご覧いただきましょう。
その宛先は、江戸時代の安政年間に、信州・小諸で創業した和紙問屋の大和屋紙店。現在も同地で和紙や水引細工、結納商品などを取り扱っている、由緒ある紙屋です。店の隣にはかつて島崎藤村の住まいがあり、藤村との交流も伝わっています。
1918(大正7)年、東京の神田にあった封筒卸商・中村封筒部が大和屋紙店に送った封書の年賀郵便がこちら。現在も時折、窓付き封筒などに見かける半透明のグラシン紙で宛名を透かし、その中に三つ折りの手紙が入っています。
封に入った状態
取り出すと……
裏面